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午後十一時三分 自販機前。被験者は立ち尽くしている。私は被験者が来たのは別のルートと追って、先回りをしていた。 当然のことだ。タバコ自販機は朝五時から夜十一時までしか稼動していない。 「遅かったか」 忌々しそうに、自販機を見ている。 そのとき、被験者に声をかけた人物がいた。 「椎家? 何してるんさ?」 「ん、橋場か。前、タバコ持ってない?」 同級生の橋場高史だった。 「持っとらんよ。未成年の喫煙は厳禁だべさ」 「わかったよ。他にタバコ吸っている奴いたっけか? 自販機止まってて、タバコ買えねぇんだよ」 「今島にタバコ吸っている高校生はいないさ」 被験者が落胆を示す。一縷の希望が断たれたようだ。 そういえば、私も被験者以外の同級生がタバコを吸っている姿は見たことない。ちなみに、被験者が住んでいるのは伊豆諸島の一つ、矢荷洲伊島である。同級生を含め、高校生は二十四人しかいない。 「ちっ、使えねぇ。そういや、お前は何してるの?」 「来月のマラソン大会の練習さ」 「マラソン大会? なにソレ?」 「あぁ、椎家はまだ、転校してきたばっかだからなぁ。知らないのも当然さ。来月、毎年恒例島民マラソン大会があるんさ」 「へぇ、そう。がんばれな」 被験者はため息をついて、返答する。 「椎家は出ないのか? 今年はモギー司郎が来るぞ」 「誰だよソレ。俺は出ないぞ。そんなもの」 「それは残念さ」 本当に残念そうに言う。 「まぁいいや。んじゃ、俺は帰る」 片手を上げて、被験者は振り返ってきた道を戻る。 「おう、そんじゃ、俺も練習続けるけぇのぅ」 橋場はそのまま、練習に戻るようだ。 そのまま、橋場が走り出す。 「…………」 …………、私の前で止まって言う。 「…………それで、冷戸は何してるんさ」 「気にするな。単なる尾行だ」 それだけ言うと私は被験者の先回りをするべく、来た道を引き返した。 <<前へ 次へ>> |