魔天聖地


 ――また、あれが来たのか!?
 夢か、幻か、錯覚としか思えないような事だから、意識の外に追いやっていた。だが、どうやら現実らしい。あれは――
 一体、また一体と、戦場を縦横に駆け巡りながら、それは数十対いた敵の機動兵器を次々と打ち抜き、叩き潰していく。その信じられない姿に、ただただ呆然とするしかない。  やがて、それは機動兵器の一体を叩き潰しながら地面に突き刺さった。撃破された機動兵器が爆発し、あたり一面に爆煙が立ち込める。だが、爆熱で突風が巻き起こり、すぐにその煙は晴れる。そして、煙の中から現れたもの――
それは拳だった。
鋼鉄で出来た、腕。
それが先ほどから眼にも止まらぬ速さで戦場を駆け巡り、あの憎らしい奴らを叩き潰していたのだ。
――まるで、神の拳骨だな。
交流を拒み、一方的に攻撃をはじめ、世界を混乱に陥れた――そして、戦場で多くの仲間達の命を奪った奴らに、神罰を与える拳。そう、思えた。
果たして、その拳を持つ神様とは、いったい何だ?
地面に突きたったその腕は、指先にも推進器が付いているようで、掌を広げて先ほどとは逆向きに勢い良く飛び出す。
その軌跡を目で追うと、はるか向こうに人影が見えた。その姿は、背後に太陽を背負い、影になってよく見えない。
――あれが……神様?
……そうかもしれない。
だってあんなにも巨大な人間は、存在しないのだから。
肘関節から先の存在しない右腕。そこに元通り収まる、鋼鉄の腕。そして、完全な姿を取り戻した神様は、マントを翻してこちらへ向かって歩いてくる。その足取りはゆっくりと、リズムを刻む重厚な足音は非常に頼もしい。
敵は目標をあれに変更したようだ。残らず一斉に、あの巨大な神様に向かって突進していく。だが、神様は少しも動じることはなく、静かに身体を包んだマントを掴み、大きく引き千切る。
そのマントの切れ端が、徐々に硬質化していく。そしてそれは巨大な剣へと変貌する。
突き進む敵機動兵器。神様は剣を振りかざし、大きくなぎ払う。
――神は埃を払うように、そして奴らはゴミのように。
蹴散らされ、陣形を崩し、面白いように混乱する敵。だが、神は容赦なくその手に握った剣を振るうのだ。
「……ははは」
 私はいつの間にか声を上げて笑っていた。我々がずっと苦しめられてきたのに、今度は奴らが苦しめられている。それも、唐突に現れた巨大な神様によって。まるで夢か、幻か。おとぎ話の領域に踏み込んだような錯覚。これが可笑しくて、笑えずにいられるか。
「あはははははははは」
 私は笑った。心の底から、腹の底から。
 見ているか? みんな。
 奴らはみんな、あの神様が片付けてくれるさ。
 私たちは――勝てるんだ。
 次々と爆発炎上していく敵。
 その爆煙に照らされて、影になっていた神様の姿があらわになる。
 ――黒光りする中世の鎧騎士のような装甲。薄く赤みがかったその色は、私の手にこびり付いた仲間達の血の色と同じだった。左右に突っ張った肩の装甲からマントがたなびき、存在の荘厳さを引き立てる。
そして、兜をかぶったような頭部。耳の部分からは角が突き出し、額には宝玉が輝く。その顔は――
「まさか……」
 私は驚愕を隠せなかった。
あれは――以前の戦争で失われたはず。
 三十年以上前に起こった戦争、その時に投入された最終兵器。その異常な戦力から、ある異名を取った悪夢の兵器。
 資料でしか見た事はないが、見間違えようはずはない。
「悪魔……」
 最後の一体を切りさばいた神様――否、悪魔の顔は、黒煙の中に消えた。


魔天聖地第零話
魔天聖地  天魔戦記(てんまサーガ) EP4 
原作・絵 悔竜
文章 少柴 透
―第零話 終―
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