水滴の器




『水滴の器』

作:遠野 秀一 




 ぽつり…、ぽつり…、ぽつり…。

 そういえば、瀬名真紀は、変わった奴だった。

 初めての出会いは、雨の日。四年前の十一月だった。
 あの日、中学二年だった俺は、久し振りの雨で鬱な気分で歩いていた。
 冬本番に入りかけた時期、それも雨なので、指先が悴むほどに寒い。だから、不愉快極まりない。そんな雨の中を歩いていると、目の前に妙な光景が目に入った。
「………」
 道端に、産まれたばかりの子猫が四匹捨てられていた。それだけなら、まだ珍しい程度で済ませられる。しかし、そこには一人の少女が、自分が濡れるのにも拘らず、猫に傘を差し出していた。
 変わった奴だ。あんな捨て猫のために自分の傘を差し出すか、普通…。まぁ、俺には関係無い。この寒いのに、ご苦労な事だな。
 俺は変わった少女と捨て猫を無視して通り過ぎようとした。しかし、
「…」
 制服が引っ張られ、歩が止まってしまった。
「…ねぇ」
 雨に打たれている少女が俺を見上げてきた。
 嫌な予感がする。こういうのと関わりたくないな。
「…この猫、拾ってくれないかな?」
 彼女の笑みは、驚くほど無垢で屈託が無かった。
 俺、深崎誠二と、瀬名真紀との出会いは、凍える程に冷え込む雨の日だった。


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